「これから日本の労働人口の49%が、約10年後にはAIやロボットなどに置き換えられる可能性が高い」
こんなニュースを聞いたことがありませんか?
野村総合研究所との共同研究を行った英オックスフォード大学のオズボーン氏は、
「自動化しやすい仕事としにくい仕事の違いは『クリエイティビティ(創造性)』と『ソーシャルインテリジェンス(社会的知性・場の空気を読む力)』の2つの要素を含んでいるかどうかだ。」
2015 年 12 月 2 日 株式会社野村総合研究所
と述べています。
それでは、創造性と、社会的知性を育てるためにどうすれば我が子供たちがAIに代替されず、将来質の高い仕事に就くことができるでしょうか。
その一つのポイントが「失敗してもあきらめない力=失敗力」を持つことだと言われています。
失敗力には、好奇心・自負心・忍耐力・回復力などが備わっています。
今回の記事では、そのヒントをお伝えいたします。
2030年の社会と仕事
米デューク大学のキャシーデビットソン教授の研究によると
「2011年の秋に小学生となった子供の65%は、将来、今ない仕事に就く」と言われています。(米デューク大学キャシー・デビッドソン2011年8月 ニューヨークタイムズ)
IT化が進んだ世界では、世界中の人がクラウド上に知識や技術を出し合い、協力して仕事をするようになります。
そして、仕事の進め方や組織の単位などが変化する中で、実際に、これまでなかったような新しい職業が次々に誕生しているのです。
ここ数年だけでもYouTuberやインスタグラマー、プロゲーマー、Uber Eatsの配達員、ドローン操縦士、VR・AR技術者、そしてカーシェアリングやAirbnbなどのタイムシェア業などが市民権を獲得しているように、
ITは私たちの社会や仕事のあり方を劇的に変え、これからも規則化できる仕事はどんどん自動化され、代わりに新しい仕事がどんどん生まれていく傾向は今後も続いていくことでしょう。
「あなたが望もうが望むまいが、現在の仕事のほとんどが機械に代行される」
そう言ったのは、google創業者の一人ラリー・ペイジですが、彼は2034年には起きると予言しています。
今は想像もつかない未来がすぐそこまでやってきていますが、変化はいつの時代にも伴うものでした。
そんな過渡期である現在、私たちにはかつてない大きな変化が求められます。
そして大人がこの時代の変化に乗れるかどうかは我が子どもたちの未来のも関わってきます。
子どもたちをこれからの時代に活躍する人間に育てたいのであれば、まず大人が時代の波に真剣に向き合っていかなければなりません。
AI時代は才能より「失敗力」や「やり抜く力」が大事
小学校・中学校などの教育現場にも現在では「ICT(情報通信技術)教育」といって、タブレット端末や電子黒板をはじめとしたデジタルデバイスが導入され始めています。
一方で、デジタル技術の利用に限らず、2020年の小学校の学習指導要領改訂でプログラミングが必修化され、情報処理力・論理的思考力などを子どもたちが具体的に学ぶことも求められるようになってきています。
また、現在見直しの真っ最中ではありますが、2020年から大学入試では記述式問題が出題されたり、記号問題も複数選ぶ問題が出題されたりする予定であり、
これまでより思考力・判断力・表現力が重視されるようになりました。
次世代に備え教育現場でも国を挙げて対応し、しっかり取り組んでいくことが子どもの将来、さらに日本の将来につながると考えられています。
そのような時代の急激な変化の中で、AIにとって代わることができない能力
すなわち前出のオズボーン氏が自動化できない仕事ができる条件として挙げた
「クリエイティブな人間」「思考力・判断力・表現力がある人間」になるために必要な能力の一つが、「失敗力」だと言われています。
「失敗力」とはつまり「努力や挑戦から失敗をしてもあきらめない力」のこと。
精神的な回復力・防御力という意味として、精神医学や心理学の分野で注目されている
「レジリエンス」という言葉とも重なりますが、これらは心の「強さ」というより「しなやかさ」というべきもので、何があってもびくともしないタフさとは違って、失敗を経験をしてへこんだり落ち込んだりしても、気持ちを立て直せる力を指します。
これは「やり抜く力」とも言われ、2016年にペンシルベニア大学心理学教授の著書 GRIT(やり抜く力)で書かれたことにより、アメリカの教育界で最も重要視されてきました。
また、これらの能力は一つのことをやり通すことで身につけることができるとされています。
「失敗力」・「やり抜く力」を鍛える方法
それでは、多くの成功者に共通する「失敗力」や「やり抜く力」はどのように育むことができるのでしょうか?
上記にもご紹介した、GRIT(やり抜く力)研究の第1人者であるアンジェラ・ダックワースの著書、
「やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」
によるとこれらの能力は、たとえ大人だとしてもある一つのことをやり通すことで身につけることができるとされています。
例えば、学校の授業以外の課外活動やピアノなどの習いことに取り組むことで、
そうではない子供に比べて多くの経験を重ねることができますし、自分が好きなことや自分にとって重要なことが分かってくるのです。
具体的な方法としては、
新しいことでもこれまでやってきたことでも良いので、自分で選択したことは最低2年間は続けると約束します。
お子さんがいる家庭ならば、家族全員で自分のやり通したいことを宣言し、一定の期間までは絶対にやめたらいけないとルールを決める。家族でお互い中間チェックしながら応援し合う。
これだけで粘りつよい人格作りの土台ができるとされています。
子供が自分のことを自分で選ぶ能力を損なわず、失敗力ややり抜く力を育みたいと願う親御さんはぜひ家庭のルールとして取り入れて見てくださいね。
ビジネスの成功者は無数の失敗から成長している
ビジネスで大成功をした人の中には、多くの失敗を経験し、そこから学んでまた新しいものを生み出し成功につながるというケースが少なくありません。
例えばベンチャーキャピタリストとして働いていたピーター・シムズは
『ほとんどの成功した起業家は素晴らしいアイデアを発見してから起業したわけではないことを知った』と述べており、
実際、Facebookの創業者であるマーク・ザッカーバーグは、失敗について次のように述べています。
『長年にわたり、私は皆さんが想像できる限りほぼすべての失敗を経験してきた。多くの技術的なミスや割に合わない取引をした。信用すべきでない人たちを信用し、才能ある人たちをふさわしくないポストに就けた。重要なトレンドを見落としたり、乗り遅れたりすることもあった。相次いで製品を送り出しては、失敗を重ねた』
その他、アマゾンの創立者でCEOのジェフ・ベゾスも
『われわれはクールなイノベーションだと思って提供することに、顧客は見向きもしない』と述べています。
ビジネスの世界でも売り手側と買い手側との間にギャップがあり、そのギャップを埋めるには、
繰り返し失敗を修正をしていくこと以外にありません。
トヨタの「カイゼン」にも代表されるように、
失敗は成功するための重要な要素として、悪いことではなくむしろ宝の山であり、素晴らしいことでもある
ととらえます。
1000回失敗しても1001回目に挑戦できるか、そこから何を学べるかが成功の鍵になってくるのです。
AI時代に成功する子供が備えるべき「失敗力」「やり抜く力」とは まとめ
「失敗してもあきらめない力=失敗力」や「やり抜く力」は、
必ず幼児期に育む必要があることではありませんが、小さいころからやり抜く力を育むことで、
特別な才能のある子供より将来活躍できる可能性が高いと言えます。
特に小学校に上がると○×を付けられる機会が出てくるので、正しくできなければ「これではだめ」と、失敗を極端に恐れるようになる子供もいるようですが、それでは新しいチャレンジができません。
東京家政大学の井桁容子氏は、
失敗から学ぶことが子ども時代の特権であると考え、
「うまくいかない体験から学ぶことでしなやかに物事を受け止めて考え、工夫し、納得することを積み重ねるための期間として与えられている時代」
(井桁容子「保育でつむぐ子どもと親のいい関係」小学館、2015年)
と表現しています。
私たちの子供は誰でも天才になれる能力を持っています。
子供に幸福で将来活躍できる大人になって欲しいなら、
心配でもいちいち子供に介入せず、側で見守り「失敗しても大丈夫」と優しい声かけで十分です。
失敗を通じて子供自信が「なぜだろう」「じゃあ今度はこうしてみよう」と試行錯誤し、さらに成長できる力を幼児期から自然と身けるようになります。
子供自信がやると決めたことを暖かく応援しながらやり通すまで見守り、
新たな時代を生き抜く力、AI時代で活躍するための力を子どもにプレゼントしてあげましょう。
【参考文献】
- 市川よしなり。AI時代の「天才」の育て方きずな出版2019年9月
- 五十嵐悠紀「AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55」河出書房新社2017年6月
- 福井俊保「エラーする力──AI時代に幸せになる子のすごいプログラミング教育」自由国民社2019年11月
- アンジェラ・ダックワース「 やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」ダイヤモンド社 2016年9月